不倫慰謝料
不倫の慰謝料請求の際に気を付けるべき法的注意点
1 はじめに
自分の配偶者が不倫をしていた場合、その配偶者や、不倫相手に対し、金銭的な請求をすることができる場合があります。
これを、不貞行為に対する損害賠償請求といいます。
ここでは、この請求について、「請求する側」、「請求された側」、それぞれの法的注意点を解説していきます。
2 対象となる行為
まず、注意が必要なのは、どのような行為に対して請求ができるのか、という点です。
世の中では、「不倫」という言葉がよく使われていますが、明確な定義がなく、該当する行為も広いように思われます。
「不倫はどこから?」というようなテーマがテレビなどでよく議論されているのを目にしたことがあるかと思います。
このような行為のうち、法律上、慰謝料請求ができるのは、「不貞行為」及びこれに類する行為に限られます。
3 不貞行為とは
不貞行為とは、「婚姻関係にある者が、その配偶者以外の者と、自由な意思のもとに性的関係を持つこと」を言います。
一番気を付けたいのは、「性的関係」ということです。
性交渉は当然これに該当しますが、たとえば裸で抱き合ったり触り合ったりする行為や、口淫や手淫、肛門性交といった行為も、性交渉に類する行為として該当することになります。
その一方で、手をつなぐ、キスをする、お互いを好きだと言い合う行為などは、肉体関係を伴わないため不貞行為には該当しないということになります。
自分のパートナーが、自分以外とこのような行為を行っていた場合、強い怒りや悲しみを抱くと思いますし、慰謝料請求をしたくなるお気持ちは筆者としてもとても理解できますが、過去の裁判例等から、基本的には不貞行為による慰謝料請求の対象とはなっていないことは、残念ながらお伝えしなければなりません。
4 証明が可能かどうか
次に注意が必要なのは、どのように「証明」するか、という点です。
不貞行為の慰謝料請求においては、不貞行為があったことを証明しなければならないのは、請求を「する」側となります。
よって、特に裁判等になった場合には、客観的な証拠を用いて証明する必要があります。
ホテルに二人で入る写真や、Lineにおける肉体関係を示すやり取りのスクリーンショットなどがよくある証拠となりますが、逆に、帰りが遅くなった…、怪しいLineの画面が見えただけ…、女物の香水のにおいがした…、不貞した当人が一度は自白したが録音などは取れなかった…、等というような場合では、証明するには不十分となる可能性が高いので注意が必要です。
5 請求するときの注意点
ここまでの条件をクリアし、いざ相手方に請求するという場面においても注意が必要なことがあります。
それは、自らが違法な行為をしないということです。
以下のような行為を行ってしまった場合、請求した側が逆に犯罪者として扱われてしまうという可能性があります。
・相手方の勤務先に乗り込んで、大声で不貞の事実を糾弾した。
→名誉棄損罪に該当する可能性があります。
また、勤務先の業務に支障をきたせば、業務妨害罪にも該当します。
・「不倫を認めて謝罪しなければ、職場や家族にばらす」という言葉を使ってしまった。
→脅迫罪や強要罪に該当する可能性があります。
・高額な慰謝料を払わなければ痛い目にあうぞ、など身の危険を感じさせる言葉を使ってしまった。
→恐喝罪に該当する可能性があります。
・SNSにて不貞の具体的事実を発信した。
→名誉棄損罪に該当する可能性があります。
以上はあくまで例示であり、ほかにも刑法に違反してしまう恐れのある行為は多々あります。
このような行為を行ってしまった場合、これらはいわゆる刑法に違反する「犯罪」と呼ばれるものに該当します。
その一方で、不貞行為は、確かに社会的倫理的に見れば悪質で許されざる行為ですが、犯罪ではなく、あくまで民事上金銭的な請求を受けるものにとどまります。
そうしますと、両者の立場は逆転してしまうということになります。
慰謝料請求をする側としては、どうしても怒りや悲しみから、感情的になってしまうことがあるかと思いますが、請求の方法や態様には細心の注意を払わなければなりません。
6 時効・除斥期間
慰謝料請求をするためには、「不貞行為の事実とその相手」を知った時から、3年以内に請求をする必要があります。これを過ぎてしまうと、時効により原則請求ができなくなってしまうので、注意が必要です。
また、不貞行為があったときから、20年が経過してしまうとやはり除斥期間により請求ができなくなってしまいます。
たとえば、不貞行為の日から21年後に、不貞行為の事実やその相手方を知っ、というような場合には、時効としてはこの知った時から3年間は請求可能ということになりますが、除斥期間を経過してしまったために請求ができない、という結論になります。
7 慰謝料請求をされた側の注意点
次に、請求をされてしまった側について、法的注意点を見ていきましょう。
請求された側の一番の注意点は、やはりそもそも支払い義務があるのか、という点になります。
8 性的関係の有無
請求する側の注意点においても解説した点の裏返しになります。
性的関係、つまり性交渉及びこれに類する行為が必要になり、これに該当しなければ、基本的に慰謝料の支払義務はありません。
いったいどのような行為に対して請求を受けているのか、これを十分に確認する必要があります。
9 婚姻関係
慰謝料請求するためには、夫婦の婚姻関係が正常であることが必要で、すでにこれが破綻していたような場合には、慰謝料を支払う義務はないと解されています。
注意が必要なのは、過去の裁判例等から検討すると、婚姻関係の破綻が認められるためには、それなりに大きなハードルを越える必要があるということです。
たとえば、家庭内別居のような状態や、セックスレスの状態であっても、それだけで婚姻関係の破綻とまで見られないことも多々あります。
また、別居=婚姻関係の破綻、とは必ずしもなりません。
たとえば関係修復を見据えて一度距離を置くために別居しているような場合には、未だ破綻にまでは至っていないとの判断がなされる可能性もあります。
一方、長期間別居が続いている、実際に離婚に向けた協議を行っている等は、婚姻関係の破綻を示す強い事情となりえます。
請求してきた側の夫婦の状態がどうであったか、可能な限り確認する必要があります。
10 既婚者であることを知っていたかどうか
慰謝料を支払う義務があるのは、不貞行為を行ったことについて、故意または過失がある人に限られます。
故意とはいわゆる「わざとやった」のことです。
相手方が既婚者であることを知っていた場合にこれに該当します。
注意が必要なのは、過失、つまり「わざとではないが、うっかり、不注意でやってしまった」という場合も慰謝料を支払う必要があるということです。
ここでいうと、相手が既婚者であることまではしらなかったが、容易にこれを知ることができたような場合、つまり、相手が既婚者なのではないかと疑うような状況には、支払う義務があるということになります。
相手が左手の薬指に指輪をしていたなどがこの過失に該当することは一目瞭然でしょうが、ほかにも、たとえば相手に子供がいた場合や、住所をなかなか教えてくれない場合、周りからのうわさで配偶者の存在を聞いていた場合なども該当する可能性があります。
11 自由意思に基づくかどうか
前述の通り、不貞行為は自由意思に基づいている必要があります。
つまり、暴力や脅迫等によって、無理矢理に発生した場合には慰謝料を支払う必要はありません。
たとえば、強姦の被害者などは当然これに該当します。
また、会社の上司から立場を悪用して関係を迫られたような場合や、弱みを握られ脅されたような場合がこれに該当しえます。
12 時効・除斥期間
これは請求する側の同項目の裏返しになりますが、注意が必要なのは時効の場合、3年間が経過しただけでは「請求できない」という効果は発生せず、請求を受ける側が「時効の制度を使います」という意思表示(「援用」といいます。)をする必要があります。
よって、3年は経過していたが、その後に請求を受けて時効の援用をせずに認めてしまった場合には、支払い義務はあるということになってしまいます。
13 さいごに
以上のように、不倫慰謝料請求については、請求する側、される側、どちらも法的に注意しなければならない点が多岐にわたって存在します。
これをすべて把握してご自身で対応することは、とても難しく、またリスクも伴うものであることはこの記事を読んでいただき、お分かりいただけたのではないでしょうか。
やはり専門家である弁護士に相談することがとても重要な分野になります。ぜひ、お気軽にご相談いただけますと幸いです。